「点字サイエンス」1998年4月号(東京ヘレンケラー協会点字出版局発行)掲載原稿
ホームページ・リーダー
ホームページ・リーダー(以下HPR)は、Windows95環境下でネットスケープとともに稼動するホームページ読み上げソフトである。HPRの最大の特徴は、キーボード上のテンキーと音声出力だけで容易にネットサーフィンができることだ。この17の数値と記号キーの組み合わせに120の機能が与えられており、晴眼者もマウスを利用し視覚障害者同様、インターネットの情報を音声で確認できる。音声出力には、IBMのProTalker97(9,800円)を利用し、これらのインストールは95Readerでできる。ただ、ネットスケープの接続の設定がやや難しいが、「てんやく広場」の2番ボードのQ&AやBIGLOBEのボイスルームに詳しい設定方法があるので、それを参考にすればなんとかなる。
以下に、本ソフトの特徴をあげる。
(A)テンキーのみで操作:テンキーの1、2、3はハイパーリンクの確認キーである。「1」は前の、「2」は現在の、「3」は次のハイパーリンク確認に使用される。また、2をダブルクリック(2回続けて素早く押す)することで、リンク先への移動が行える。4は前の、5は現在の、6は次の行読みキー。7は前の文字読み、8は文字の詳細読み、9は次の文字読みキー。0は再生キー、Enter(エンター)は停止キー、ピリオドはポーズキー。Num Lock(ナムロック)は過去のページを1つずつさかのぼるヒストリーキー、スラッシュはオンラインマニュアルページを呼び出すためのヘルプキー、アスタリスクはモード設定キー、マイナスはブックマークキー。プラスは拡張キーとして用い、他のキーとの組み合わせで各種機能が割り当てられており、さらに2つのキーの同時押しにも機能が割り当てられ、合計120の機能を17のキーで実現している。
(B)早送り再生と文字検索:拡張キー「プラス」を押しながら0を押すと、早送りが行える。これは行頭だけ少し読み、後はテープレコーダーの早送りのような感じで読み上げるものだ。必要であれば詳細読みもできるので、確認しながら不必要なところは読み飛ばし、効率的にWeb上の情報を読むことができる。また、エンターキーを押しながら5をダブルクリックすると検索文字入力ができ、エンターと4でページの中から目的の単語・熟語の前方向への検索、エンターと6で後方向への検索ができ、画面に表示されている部分から、自分の目的としている情報を瞬時に捜すことができる。
(C)Web検索、ホーム入力とメールの送信:インターネットの中で、目的の情報を得る手段としてWeb検索は最も重要である。その点について、HPRではYahooなどの検索エンジンの利用ができるようになっている。特に、プラス、カンマ、疑問符キーを続けて入力した後に検索語を入力するとYahooのWeb検索が簡単にできるのでこの標準機能は便利だ。例えば、プラス、カンマ、疑問符、「視覚障害」と入力するとYahooでは53件の検索結果が出た。また、オンラインショッピングなどのホーム入力やメールの送信も95Readerとの併用ででき、墨字図書やパソコンソフトがオンライン通販で購入できる。
(D)ネットスケープ画面に同期して読む:晴眼者に画面を見てもらいながらWeb情報を一緒に利用できるのでサポートが容易に受けられ、また音声データを聞くこともできるため、Web上の各種音声も楽しめる。
(E)マルチタスクでネットサーフィン:Windowsの最大の利点であるマルチタスクを利用し、Web上の情報を聞きながらワープロで文書の作成などができるほか、インターネットの情報をそのままワープロに取り込むこともでき、作業効率が格段とアップする。
このようにホームページ・リーダーの機能は多彩で、初心者から熟練者まで安心して利用できる。
インターネット翻訳の王様
インターネットは世界各地を結んでいるため、英語のページが多い。米国の視覚障害者施設関連のホームページを見ようとしても英語にとまどう人も多いだろう。そこで威力を発揮するのがIBMから発売されている、「インターネット翻訳の王様」V2.04リフレッシュパック(7,800円)。これは95ReaderやHPRと比較的相性がよく、リアルタイム翻訳やテキストデータの翻訳とその保存が容易にできる。「翻訳の王様」は、キング・ナイト・クイーンの3つからなるが、95ReaderとHPRとの相性が比較的よいのは、キングとクイーンである。キングはホームページの内容をリアルタイムに翻訳・要約するためのソフトである。ネットスケープのメニューに翻訳ボタンが追加されるので、そこをクリックすることで、HPRから翻訳された日本語や要約された文書を読むことができる。ナイトは、インターネット巡回ソフトだが、95Readerではうまく使えない。クイーンは英語/日本語簡易翻訳ツールである。95Readerでは、英語ファイルをテキストエディタで作成し、クイーンで翻訳し、翻訳ファイルを保存し、HPRや普段使っているエディタで読むことが可能で、その手順は以下の通り。
A.英語ファイルを用意し、メニューの「ファイル」の中の「開く(原文)」で原文ファイルを開く。
B.メニューの「翻訳」の中の「翻訳」で開始。
C.メニューの「ファイル」の中の「名前をつけて保存」を選択し、保存。
D.ホームページ・リーダー、または普段使用しているエディタでそのファイルを指定して読ませる。
このソフトは音声での操作が比較的容易だが、翻訳精度は十分とはいえず、誤訳が多い。しかし、辞書を鍛えると精度が上がり、期待できるような翻訳も可能だ。私は海外の視覚障害関連のページ閲覧によく使うが、おおよその内容把握には大いに役立っている。
ホームページ・メーラー
ホームページ・メーラー(以下HPM)は、HPRと同様の操作つまりホームページを読むような感じでメールの送受が可能なソフト。現在IBMで開発中で、このほどベータ版が公開され、HPR利用者に広く使用を呼びかけている。
HPMの主な特徴は、HPRと同様のテンキー操作で、テキストメール文書の送受、添付文書(テキストとバイナリ)の送受、未読メールの一括テキスト表示、メール送受リストの並び替え、アドレス帳の利用、メーリングリストごとへのメールの切り出しができることである。私はLAN環境で使用してみたが、PPP接続でももちろん利用でき、複数のネットワークに入会している人は、それらのメールの一括管理が可能だ。インストールには、「パーソナルWebサーバー」の導入が必要だが、Windows95のOSR2にはすでにこの機能があり、その場合はWindows95のCD-ROMからインストールし、それ以前のWindows95利用者はマイクロソフトのWebからダウンロードしてインストールすればよい。そして、HPMSETUPを実行し、HPMのインストールを行い、さらにプログラムの初期設定を一度だけ行う。SMTPサーバー名(送信メールサーバー名) 、POP3サーバー名(受信メールサーバー名)、POP3ユーザーIDおよびパスワードなどのサーバー設定を正しく行えば終了だ。このソフトは、文書作成以外の機能を全てテンキーのみで行え、初心者にも手軽にメールの送受信ができる。
IBMはHPRユーザーの中の視覚障害者と関係団体にHPMベータ版の配付を行っている。希望者は3月31日までに、氏名、住所、電話番号、E-メールアドレス、年齢、職業、パソコン歴、使用パソコン機種、HPRに関する感想をひとこと記入しE-メールでibmhpr@ibm.net宛申し込めば、確認後フロッピーで送られてくる。
メールでの情報交換
E-メールは視覚障害者の重要なコミュニケーション手段として用いられている。Web上の情報は送信側が一方的に行うが、メールはお互いに情報交換を行う。最近では、同じ趣味や目的を持った人の情報交換のための「メーリングリスト」の開設や特定の情報を配信する「メール配信サービス」の活用が進んでいる。視覚障害関係としては、視覚障害者リハビリテーション協会の「JARVI」、滋賀県立盲学校の「BRAILLE」、]グラスルーツなどの音声化ソフトのための「GRユーザーズ」、視覚障害者のWebアクセスのための「Let's Think Web Access」などのメーリングリストをあげることができる。また、メール配信サービスとしては、図書館流通センターの「週間新刊全点案内」、パソコン関連通販業者が行っている「SOFMAPニュース」、毎日コミュニケーションズがパソコン関連ニュースを毎日配信する「PC Work Hot Mail」などがある。また、HPRとHPMを利用すればメールの情報に書かれているURLに直接飛ぶこともできるので、メールで得た情報をWebで詳細に確認できる。
Windows95でインターネットの現状と課題
このように音声で利用可能なWindows環境のインターネット・アクセスソフトは徐々に増えてきている。しかし、現状はまだVDMやグラスルーツなどのMS-DOS音声化ソフトを利用している人が主流である。特に、BIGLOBEやアサヒネットのテキスト表示サービス、福島盲や山梨大学などでサービスしているリンクスメール、千葉大学などのLynxなどの利用は手軽なため、しばらくはこれらと併用が続くと思われる。また、Windowsは視覚に訴えるものが多く、これらを音声だけで理解するには限界もある。特にネットワークの設定や各種ソフトのインストールは初心者では困難で、さらにシステム的にもやや不安定で、しゃべらなくなってしまうとお手上げの状態だ。また、インターネットの情報には英語がかなりあり、それを音声だけで理解するのは難しい。上記ソフトが点字ディスプレイに対応すれば、さらに英語のページへのアクセスが向上すると思われる。しかし、HPRは初心者をも考慮し、簡単な操作でWebアクセスを可能にし、Windowsの利点であるマルチタスクと音声データの利用が可能である。これは非常に大きな魅力といえよう。また、DOSは晴眼者のサポートを受けにくかったが、Windowsは比較的容易で、インターネットをフル活用するにはこの点も重要であろう。
おわりに
今回は視覚障害者のインターネット利用をWindowsから考えてみた。インターネットには多くの情報があるので、その中から必要なものを素早く得ることが重要である。特に有益な文字情報が多いので、積極的にインターネットを活用することが情報障害の克服につながると考えられる。
この稿を書くにあたり、「てんやく広場」の掲示板におけるホームページサポート隊のコメントなどを参考とさせていただいた。このようなソフトへの常日頃のサポートに感謝し、今後とも視覚障害者の情報アクセスが進歩するようご協力いただけることを期待したい。